値札の裏に、物語がある|調味料の選び方(塩・味噌・醤油)
今日は、調味料の選び方のお話。
台所の三人衆、お塩さん・お味噌さん・お醤油さんの履歴書を、一緒にのぞいてみましょう。

はじめに
だるま王子、スーパーへ行く
ある日、だるま王子がお使いを頼まれました。
メモには「お塩、お味噌、お醤油」
王子は棚の前で、迷わず一番安いものを三つ、かごに入れました。

同じ名前なんだから、安いほうが賢いでしょ?

王子、ちょっと裏返してごらん

裏?……字がいっぱい書いてある

それがこの子たちの履歴書だよ
笑っちゃうけど、これ、昔の私です。
たぶん多くの人がそう。
値札は見ても、裏は見ない。
見る理由を、誰も教えてくれなかったから。
値札が教えてくれるのは「今日の値段」だけ。
裏に書いてあるのは、その子がどこで生まれて、どれだけの時間をかけてここまで来たかという物語なんだと、私は学んだよ。
今日は台所の三人衆、お塩さん・お味噌さん・お醤油さんの履歴書を、一緒にのぞいてみましょう。
お塩さんの章
戦国武将も青ざめた、命の粒
お塩さんの履歴書
生まれ:海。
育ち:お日さまと風、または平釜でじっくり。
特技:海のミネラルをそのまま連れてくること。
経歴:戦国時代、武将の運命を左右する。
塩は昔、武器より怖い「兵糧攻め」の道具でした。
戦国時代、山国の甲斐では塩が取れません。
そこで今川氏真が武田信玄への塩の流れを止めた「塩留め」をしたと、『武田三代軍記』に書かれています。
そこへ宿敵の上杉謙信が日本海の塩を送ったと伝えられていて、これが「敵に塩を送る」の語源と言われています。
糸魚川から松本へ約120キロの「塩の道」も、この時代からの歴史をもつ道です。

塩を止めれば、戦わずして相手は弱る。
それほど人の体には欠かせないものだったのじゃ
では、今の塩は?
塩には大きく二種類あります。
- 精製塩:海水から塩化ナトリウムだけを取り出したもの。
ほぼ純粋な「しょっぱい粒」。
裏の工程欄に「イオン膜」と書かれていることが多い - 天然塩:天日や平釜でじっくり作られた塩。
塩化ナトリウムは8〜9割ほどで、残りにマグネシウムやカリウム、カルシウムが自然の形で残っていると言われています
韓国の研究では、塩で血圧が上がりやすい体質のネズミに両方を与えたところ、天然の海塩のほうが血圧が上がりにくく、腎臓の傷みも少なかったそうです。

つまり『塩は塩』じゃなかったんだね。
ただし人での比べっこは、まだこれからなんだって

じゃあ天然塩なら、どんぶり一杯いける?

王子、それは話が飛びすぎ。
良い塩は『ちょうどいい』を教えてくれる塩だよ
お味噌さんの章
同じ塩分なのに、なぜか許される人
お味噌さんの履歴書
生まれ:大豆と麹と塩。
育ち:樽の中で、春夏秋冬をゆっくり。
特技:同じ塩分でも、なぜか大目に見てもらえること。
仲間:麹菌、酵母、乳酸菌。
お味噌さんは、三人衆の中でいちばんの不思議ちゃんです。
広島大学の渡邊敦光先生たちの研究で、塩で血圧が上がりやすいネズミに「塩だけのえさ」と「同じ量の塩分を含む味噌のえさ」を食べさせたところ、味噌のほうは血圧が上がらなかったそうです。
脳卒中を起こしやすいネズミでも、味噌を食べた群は脳卒中の起こり方が遅かったと報告されています。
先生は、味噌の塩分は発酵の途中で何かと結びついて、ただの塩としては働いていないのかもしれない、と考えているそうです。
人の調査でも、共立女子大学の上原誉志夫先生が「みそ汁を飲む回数と血圧に関係は見られなかった」と学会で発表されています。

味噌さんだけ、塩分の取り調べで無罪放免だなんて!

ただし、麹がちゃんと働いた味噌の話じゃ。
急いで作られた味噌も同じかは、わからんぞ
遅い味噌と早い味噌
昔ながらの味噌は、大豆と麹と塩を仕込んで、半年から一年以上、季節の温度にまかせてゆっくり熟成させます。一方で、温度を上げて数週間ほどで仕上げる「速醸」の味噌もあります。風味を整えるために、調味料や酒精が加えられているものもあるよ。
私は、体の中で起きることは、きっとこの「時間」の差に隠れていると思う。麹菌がじっくり働いた時間こそ、先人たちが大事にしてきたものなんじゃないかな。
お醤油さんの章
本名はラベルの裏に書いてある
お醤油さんの履歴書
生まれ:大豆と小麦と塩。
育ち:もろみとして半年から数年。
特技:自分の生まれ方を、ラベルに正直に書くこと。
座右の銘:急がば回れ。
お醤油さんは正直者です。
自分の生まれ方を、ちゃんとラベルに書いてくれています。
国の規格では、醤油の作り方は三つに分かれています。
| 作り方 | どう作る? | ひとことで |
|---|---|---|
| 本醸造方式 | 麹と塩水で仕込んだもろみを、発酵・熟成させる。アミノ酸液は使わない | 昔ながらの生まれ |
| 混合醸造方式 | もろみにアミノ酸液などを加えて、発酵・熟成させる | 途中で助っ人が入る |
| 混合方式 | できた醤油に、アミノ酸液などを混ぜる | 最後に味を足す |
アミノ酸液というのは、大豆などのたんぱく質を酸で分解して作る、うま味の液体です。
麹菌が何か月もかけてする仕事を、一気にやってしまう感じだと私は理解しているよ。

せっかちな人のための速成コースだね

僕も試験は速成コース派です!

王子、それで身についたことはあるかの?
「本醸造」の中にも、もう一段奥がある
実は、日本で作られている醤油の約8割は本醸造です。
でも本醸造にも、大きなタンクで温度を管理して半年ほどで仕上げるものから、木桶で一年以上、季節にまかせて寝かせるものまであります。
原料も、丸ごとの大豆か、油を搬った後の「脱脂加工大豆」かで分かれます。
だから私は、「本醸造」の文字だけで安心せず、原材料の欄ものぞくようにしています。
お買い物で使える「履歴書」の読み方
店頭で裏返して、ここだけ見れば大丈夫。
| 調味料 | 見るところ | 昔ながらのものの目印 | 立ち止まりたい表示 |
|---|---|---|---|
| 塩 | 工程 | 天日、平釜 | イオン膜 |
| 味噌 | 原材料 | 大豆・米(麦)・塩だけ | 酒精、調味料(アミノ酸等) |
| 醤油 | 製造方式と原材料 | 本醸造、丸大豆、木桶仕込み | 混合醸造、混合、アミノ酸液 |

人も調味料も、中身は裏に出るものだね
全部を一度に替えなくていいと私は思う。
まずは毎日使う一本だけ。味の違いに驚いたら、そこから少しずつで大丈夫だよ。
わが家の台所の三人衆
私が実際に使っている三人を紹介します。
(PR)お塩さん

カンホアの塩【石臼挽き】500g (x1袋)
本格天日塩ながら手頃な価格も魅力なお塩です。
独自の天日製法によって天日だけでゆっくりと結晶させてます。
海のような、深く豊かな味わいで、塩辛さだけでなくほのかに感じる甘みや旨味など
奥深い味わいが楽しめます(^v^)
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カクキュー 八丁味噌 300g (1袋)
愛知・岡崎で、1645年から味噌一筋。
大きな木桶に仕込み、天然の川石を職人が円錐状に積み上げて重石にする。
そのまま二夏二冬、二年以上かけて天然醸造で熟成させた豆味噌です。
原材料は、国産大豆と食塩だけ。
(PR)お醤油さん

オーサワジャパン オーサワの二百年蔵醤油
特別栽培大豆と小麦を使用の、昔ながらの製法で作られた味わい深いお醤油です。
原材料に小麦が入っていますが、じっくり発酵させる過程で、グルテンはほとんど分解されると言われています。
だから私は、昔ながらの製法のお醤油は気にせず使っています。
※小麦アレルギーのある方は、表示を確認して、主治医の先生とも相談してくださいね。
調味料選びについては、以前の記事「私が値段で選ぶのをやめた日|伝統製法の調味料と、食の選択眼が変わるまで」もよかったらどうぞ。
おわりに
履歴書を読むと、台所がちょっと賑やかになる
安いものを選んできたことは、何も悪くないと私は思う。
家族のためにやりくりしてきた、立派な毎日の工夫だから。
ただ、裏を読むようになってから、台所の景色が変わりました。
このお塩さんはどこの海から来たのか。
このお味噌さんは何回の季節を越えたのか。
そう思うと、いつものお味噌汁が、少しだけ特別な一杯になるんだよ。
先人たちは研究結果がなくても、時間をかけて作ることを大事にしてきました。
その理由に、今ようやく科学が追いついてきているのかもしれません。
次のお買い物で、一本だけ裏返してみてね。それだけで、もう立派な一歩だよ。

kekoさん、僕も履歴書を書いてみました!

どれどれ……特技、『一番安いものをすぐ見つける』

王子、その特技は今日で卒業じゃな
ご注意
この記事は、私が学んだことと体験をもとにしています。
紹介した研究の多くは動物実験で、人にも同じことが起きるとは限りません。
高血圧や腎臓などで塩分の指示を受けている方は、主治医の先生にご相談くださいね。感じ方は人それぞれです。
