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ちいかわ 人魚の島のひみつ 考察|閉じ込めていたのは誰か

しぜんのまほう
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映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』の入場者特典でもらったシーサーのチャーム

朝いちばんの回だったんだ。

九時ちょうど。

夏休みだからか、館内には子どもがいっぱいで、あちこちからざわざわ、きゃっきゃと声がしてた。

ボクが座ったのは最前列のど真ん中。

首がちょっと痛くなるけど、あそこはいい席だよ。

画面しか目に入らないから、後ろのざわめきも、なんだか遠くの波の音みたいに聞こえてくる。

観たのは『ちいかわ 人魚の島のひみつ』

最初はね、ずっとウフフって笑ってた。

ゆるいんだ、ちゃんと。

ちいかわたちは相変わらずで、船に酔ったり、おいしそうにごはんを食べたり。

ああ、今日はこういう時間なんだなって、ボクものんびり観てた。

でも途中から、ちょっとだけ、背筋が伸びた。

だるま王子
だるま王子

※ ここから先は、物語の結末にふれます。まだ観ていない方は、そっと閉じてくださいね。

報酬100倍の島で、ちいかわたちが見つけたもの

きっかけは、討伐の報酬が100倍という話でした。

キモダルマ
キモダルマ

100倍。すごいよね。そんなうまい話ある?って思うけど、
行くよね。ボクだって行くかもしれない。

島に着いて、船酔いしたちいかわを助けてくれた二人組がいた。
名前のない、島の人たち。
親切だった。

ある夜、洞窟で人魚たちに襲われる。
そこでちいかわたちは知る。
人魚の仲間が一匹、島の誰かに食べられたこと。
いちばん大きな人魚——セイレーンが、その犯人を探していること。

そして翌日、もうひとつ知る。
この島では、島民が何人も行方不明になっていること。

つまり、報酬100倍の討伐というのは。
島の人をさらって食べた人魚を、退治してくれという依頼だった。

でも人魚が襲ったのは、仲間を食べた誰かが、自首しに来たと思ったからだった。

じゃあ、なんで島の人は人魚を食べたんだろう?

ちいかわたちは、あの親切な二人組の家にあった本から、それを察してしまう。

人魚を食べると、永遠のいのちが手に入る。

「永遠のいのち」を手に入れた日

ほんの少し昔の話。

まだ人魚と島の人たちが、おだやかに暮らしていた頃のこと。

あの二人組が、海で釣りをしていた。
その近くで、セイレーン達は小さな人魚3匹と遊んでいて、セイレーンの体は大きいものだから、うっかりボートを壊してしまう。

気づかなかったんだ。
壊してしまったことに…

ほんとうに、ただの事故だった。

二人は海に投げ出されて、ひとりが瀕死になった。

もうひとりは、思い出してしまう。
人魚を食べれば、永遠のいのちが手に入るという話を。

洞窟に行き、三匹いた人魚のうち、いちばん小さな子をおびき寄せて、殺した。
煮付けにして、動かない友だちの口に運んだ。

そうして友だちは、生き返った。

キモダルマ
キモダルマ

ボクが、ああ、と思ったのはここなんだ。

生き返ったその子は、そばにあった本を見て、自分が何を食べさせられたのかを知る。永遠のいのちを手に入れてしまったことを、知る。

そして、絶望するんだよ。

助かった瞬間じゃない。
助かったと分かった瞬間に、絶望してる。

手に入れたその日に、もう失ってるものがあった。

震えた手で、指切りをした

その子は言うんだ。

ひとりにしないでくれ、って。

そしてもうひとりにも、人魚を食べさせる。
二人は震える手で、指切りをする。

同じ秘密。

同じ罪。

同じ永遠。

…あれは絆だったのかな?
ボクは何度か考えたんだけど、たぶん、そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。

ダルマ天使
ダルマ天使

ふたりぼっちになる約束って、あたたかいけど、外に出られなくなる約束でもあるよね。

光の射す海の底で、水面を見上げる人魚のイメージ
挿絵はAIで制作しています

セイレーンの誓い ─ 暗くて狭いところに閉じ込めてやる

セイレーンは怒っていた。
当たり前だ。
小さな仲間を殺されて、食べられたんだから。

だから誓う。
犯人を見つけて、これから先の生を、ずっと暗くて狭いところに閉じ込めてやる、と。

殺すんじゃなくて、閉じ込める。
永遠のいのちを持ってしまった相手には、それがいちばん重い罰だから。

歌えば島の草木が育つくらいの力を持ったセイレーンは、強かった。
ちいかわたちも、ずいぶん苦戦した。

たぶん、もう、閉じ込められている

でもね。

だるま王子
だるま王子

ボクはスクリーンを見上げながら、ずっと思ってた。

セイレーンが閉じ込めなくても、あの二人はもう、暗くて狭いところにいるんじゃないかな。

あの日、指切りをした夜から。ずっと。

誰にも言えない。
忘れられない。
逃げられない。
しかも、終わりが来ない。

誰かが罰を下すから苦しいんじゃなくて、そうしてしまったその瞬間に、もうその中にいる。

因果って、そういうことなのかもしれないね。
裁判みたいに、あとから判決が出るんじゃなくて。
手を伸ばした時点で、その手の形のまま固まってしまう、みたいな。

セイレーンだけが、まだそれを知らない。

そして、追いかけるほうも

だるま王子
だるま王子

これはボクが、いちばん静かな気持ちになったところなんだけど。

セイレーンのほうも、たぶん、同じなんだ。

物語の終わりで、二人は島を出て、誰もいない小さな島で、ふたりの暮らしをはじめようとする。
そしてその島のまわりの海を、セイレーンと、残された二匹の人魚が、遠巻きにうろついている。

追いかけるほうも、そこから離れられない。

怒りを手放さないかぎり、セイレーンはずっとあの海を回り続ける。
ぐるぐる、ぐるぐる。
何十年でも、何百年でも。

閉じ込めた側と、閉じ込められた側。

でもよく見ると、同じひとつの、暗くて狭いところの、別々の角にいるだけなのかもしれない。

どっちも、握りしめてる。

ちいかわが、うろこを海に還した

ダルマ天使
ダルマ天使

ボクが好きだったのは、ここ。

ちいかわはね、あの二人の家の台所で、見つけてたんだ。
殺されたであろう小さな人魚の、うろこを。

拾って、ポシェットにしまった。

でも、言えなかった。
切り出すタイミングを、ずっと探して、探して、結局最後まで言えなかった。

そして帰りの船の上で。
うろこはふわりと風にふけて、海に還っていった。

…ちいかわは、何も解決してない。
告発もしてないし、二人を許したわけでもない。
ただ、言えないまま持っていて、持っていられなくなって、手を開いた。

keko
keko

でも私は、あれでよかったんじゃないかと思ってる。

握りしめたままだったら、ちいかわまで、あの島に残ることになっていたかもしれないもんね。

まずは、呼吸に戻ってみよう

映画館を出て、明るい外に出たとき、ボクはちょっとぼんやりしてた。

だってさ。
生きてると、いろいろあるよね。
ほんとうに、いろんなことがある。

言えなかったこと。
してしまったこと。
許せない誰かのこと。
ずっと持ったままの、小さなうろこみたいなもの。

あれを手放しなさい、なんてボクには言えない。
手放し方を教えられるほど、ボクは偉くないし、そんな簡単な話でもないと思う。

ただね。

ぐるぐるしてるとき、ボクにできることは、たぶんひとつくらいしかなくて。

まずは、呼吸に戻ってみる。

吸って、止めて、吐く。
それだけ。
何も解決しないけど、握りしめてる手に、自分で気づけることはある。
ああ、いま力入ってたな、って。

ゆるいアニメを観に行っただけの、朝いちばんの映画館で。
ボクはそんなことを考えてました。

ダルマ天使
ダルマ天使

よかったら、あなたも一度、呼吸に戻ってみませんか。

静慮(せいりょ)のこと
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